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更新日付:2014年12月3日 青少年・男女共同参画課

青森県女性ロールモデル 鮎川恵理さん

自分が困ったとき、「手伝って」と発信すれば、周りの誰かが助けてくれます。
ひとりで抱え込んで疲れ果てる前に、まずは発信してみてください。

鮎川恵理さん
八戸工業大学工学部バイオ環境工学科 講師
鮎川 恵理さん(八戸市)

【プロフィール】
 東京都出身。国立極地研究所で南極におけるコケの生態を研究し、2000年には第42次南極地域観測隊に参加。帰国後、2003年に南極のコケの繁殖に関する研究で博士号を取得。2005年から八戸工業大学工学部生物環境化学工学科助手、2008年から同大学工学部バイオ環境工学科講師として教壇に立っている。
 2013年から特定非営利活動法人奥入瀬自然観光資源研究会の副理事長を務めている。

鮎川恵理さんの主な分野 「専門職・研究職」

チャレンジのきっかけは?

南極に憧れて

 もともと山や湖、植物など、自然環境に興味がありました。高校生の頃は木こりになりたいと思っていましたし、実際、東京の山奥で木こり体験をしたこともあります。その影響もあり、大学ではワンダーフォーゲル部という部活に入りました。ワンダーフォーゲルというのは、ドイツ語で「渡り鳥」という意味で、簡単に言えば、仲間といろいろな山を渡り歩いて心身を鍛えようという活動です。テントや食料を持参して何日間も続けて山を登ったり、雪山登山を経験したりするうちに、しだいに南極に憧れるようになりました。ちょうど環境科学のような学科にいたので、漠然とではありましたが、自分の勉強やワンダーフォーゲル部での活動が南極という地につながるのではないかと思ったのです。

これまでのみちのり

極地研究所でコケの研究

 大学の先生に「お前は何がやりたいんだ」と聞かれたので、思い切って「実は南極に行きたいんです」と伝えたら、南極に詳しい研究者を教えてくれました。そうしたら、その研究者が、さらに詳しく研究をしている国立極地研究所というところに勤めている方を紹介してくれました。その方は極地の植物を研究していたので、「コケの研究をするので勉強させてください」とお願いして極地研究所でコケの研究を始めることになりました。

 極地研究所では、実際に南極に赴いてそこに生えているコケを採取したりしました。南極は氷だけだと思いがちですが、実は氷がない地域も1%くらいあるんです。気温はほぼ常に氷点下という厳しい環境ですが、夏場は海に近いところでは0度を上回ります。夏場は岩山の間を流れる小川や雪渓が溶け、そこの水を頼りにコケが生きていくんです。

 また、南極の湖底にもコケが生えていて、湿原に生えているコケの塊を正式名称でヤチボウズと呼ぶのに対して、南極の湖底のコケをコケボウズと呼んでいます。湖面に向かってコケの塊がいくつも生えているんです。コケは、寒さが厳しくて年間を通して60日ぐらいしか水を得られないような環境でも生きていける、ものすごい植物なんです。

働き始めてすぐの出産と育休

 極地研究所で8年間の研究生活を送った後、就職先を探しました。せっかく今までコケの研究をしてきたのだから、私の研究が活かせるような大学がいいなと思っていましたし、なおかつ自衛隊の基地がある地方を探していました。というのも、南極で知り合った自衛隊員の夫と、遠距離生活を覚悟の上でそのとき既に結婚を決めていたからです。そういったことも考えながら全国の大学などの教員公募に多数応募した結果、八戸工業大学への勤務が決定しました。

 八工大で1年間働いた後に長女を出産し、すぐに育休に入りました。育休中は夫と一緒に県内で子育てをする予定でしたが、急遽、夫が仕事で南極に行くことになってしまったんです。知り合いがほとんどいない土地で子育てするのはさすがに大変だと思い、東京の実家で両親の助けを得ながら1年間育児をしていました。

 育休復帰後は再び八工大で働きましたが、なにせ勤めてからすぐに出産して育休を取ったという形だったので、復帰前も復帰後も、職場に慣れるのが精一杯で研究や授業などが落ち着いてできない状況でした。どこか心の中に「頑張らなければ」という思いがあった反面、無理をしすぎたせいか、風邪をこじらせてしまい、1か月で6キロも痩せてしまったんです。

周りに頼る人がいないということは

 私は東京都出身、夫は宮崎県出身。どちらの両親も青森から離れている上に、夫も職業柄全国のあちこちを行ったり来たりしているので、実質、家事も育児もひとりでやらなければいけない状況でした。仕事も家事も育児も、とにかく必死でした。子どもが3歳くらいのときに、「もしママが倒れて動かなくなったときは、アパートを出て周りの人が通ったら『ママが動かない』って言うんだよ」と教えたこともあります。自分が風邪で倒れてしまったら、それこそ子どもたちにご飯をあげる人がいなくなってしまいます。保育園の先生にも、「子どもの無断欠席が続いたら、私が倒れているかもしれないから見に来てください」と伝えました。とにかく、子どもたちがお腹を空かせて死んでしまうのはまずいと思ったんです。それぐらい一日一日が大変だったんだと思います。でも、周りに頼る人がいないということは、そういうことなんです。

他人に言われて気づいた

 育休復帰から2年後、次女を出産しました。0歳と2歳の子どもを育てることになったのですが、「自分は疲れているんだ」と自覚したのは、ちょうどこの時期でした。子育てに関することだけでなくその他のいろいろなことをひとりで抱え込んでいた時期だったと思います。子どもを送った後、保育園のすぐそばのガードレールに車をこすってしまったんです。

 保育園の先生たちに、「お母さん疲れてるんですよ」と言われて、そこで初めて「そうだよね、疲れてるんだよね」と受け入れることができました。他人に言われてようやく気づいたんです。何から何までひとりでやるなんて無理だよ、って。

 自分ひとりでは身がもたないと感じたので、週に1回、21世紀職業財団の保育サポーター制度を利用して近所のサポーターの方に子どもの面倒を見てもらうことにしました。半年間ぐらい定期的に利用しましたが、やはりひとりで全部抱え込んでいた時期よりもずっと気が楽になりましたし、体力的にも余裕ができました。また、子どもが急に熱を出したときは、私の代わりに他の先生が講座を担当してくれるなど、子育て中は職場の教職員や研究室の生徒たちにとても助けられました。

現在の活動状況や今後の目標など

奥入瀬自然観光資源研究会

 3年前、自然の動植物の解説を行うネイチャーガイドの河井大輔さんという方から「奥入瀬をコケで盛り上げませんか」と声がかかったことがきっかけで、奥入瀬・十和田湖エリアの自然観光資源を研究してその魅力を発信するため、奥入瀬自然観光資源研究会を立ち上げました。

 研究会では、奥入瀬の豊かな資源を県民の皆さんに知ってもらうために、広報活動やコケの観察会などを行っています。観察会では、参加者全員にルーペを渡して首にかけてもらい、道中で見つけるコケをルーペで見てもらいます。肉眼では見られないような繊細な形が見えますし、光にかざして見るとコケが透き通ってキラキラと光ってとてもきれいなんです。観察会を通じてコケにハマってしまう女性の方は年々増えていますね。

 また、立ち上げた当初は任意団体でしたが、今年、ついにNPO法人化して日本蘚苔類学会青森大会を奥入瀬渓流で開催することもできました。研究者やコケ好きのアマチュアの方など、80名近くの参加がありました。近年ではコケ玉を育てている方もいるようですし、徐々にコケの認知度や関心が高まっているのは確かですね。

今後の研究

 大学の授業や奥入瀬自然観光資源研究会など忙しいですが、今後は研究もじっくり進めていきたいと考えています。奥入瀬に生えているコケの特徴はなにかというテーマと、東日本大震災の発生前と発生後における種差海岸の植物の変化というテーマで調査研究を進めています。ちょうど今が野外調査のシーズンオフなので、これから論文を書き進めていきたいと思っています。

これからチャレンジする女性へのメッセージ

ダメ元でも思ったことは口にする

 私が勤める大学では、理系の女性研究者は少なく、さらに言うと、産休や育休を取得する女性教員の前例がなかったので、事実上、私が前例をどんどん作っている状態です。旧姓使用もそうです。鮎川という名字は旧姓です。なぜかと言うと、研究者が名字を変えてしまうと、別人の論文だと認識されてしまう可能性があるからです。なので、旧姓使用を大学側にお願いしたら、その制度を作ってくれました。

 心の中で思ったことをそのままにしていたら何も変わりません。ダメ元でも、思ったことは周囲に言ってみたり、お願いしたりするといいと思います。そこから新しい道や、新しい制度が生まれるかもしれません。

困ったら「手伝って」と発信すること

 自分が困ったとき、「手伝って」と発信すれば、周りの誰かが助けてくれます。私も遠距離結婚、夫婦の両親がどちらも青森県外という、一見、孤立無援の子育て状態ですが、それでも仕事が続けていられるのは地元の助けがあるからです。保育園や学童保育、保育サポーター、ファミリー・サポート、さらには友人の助けも借りて、今までやってこられました。ひとりで抱え込んで疲れ果ててしまう前に、「手伝って」と周りに発信してみてください。必ず誰かが助けてくれます。

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この記事についてのお問い合わせ

青少年・男女共同参画課 男女共同参画グループ
電話:017-734-9228  FAX:017-734-8050

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